井川香四郎著「落とし水」
<あらすじ>
備前宝楽流の庖丁人・乾聖四郎は、両国橋の東詰に新しくできた料理茶屋『竜宮』の女将のお峰から、柿落としの出張料理を依頼された。お峰は、この機会に昔は分かり合っていた、犬猿の仲の二人を聖四郎の料理で元に戻して欲しいという。聖四郎は二人の心を結びつけようと、趣向を凝らした料理を供していく。そして最後に用意した物は、何の変哲もない鯖の味噌煮だった…。公儀から天下御免の“包丁免許”を受けた男の至高の業が荒んだ者の心を救う。
いきなり江戸に舞い戻りました。何ともまぁ贅沢な限りのご馳走が並びに並んで、空腹の時には読むのも辛い。いつの間にか押しかけ弟子がいたりして、「飛ばしたかな」とも思ったがそうではないらしい。表題作の「落とし水」は同性として気持ちがよく分かる。しかし、医食同源とはよく言ったものだ。この作品の根底にあるのは、ご馳走なんかよりもそのことだと思う。